作家の栗本薫氏の訃報が先月ありました。膨大な著作があった人だと思いますが、小説は読んだことがありません。正確に言うと、二十代の頃に2冊ほどトライしたことがあったのですが、作品世界というか文体といいますか、とにかくどこか違和感があって、結局読了できずに途中で放り投げてしまったのでした。よっぽどこの作家との相性が悪かったのでしょう。
しかし中島梓としての著作は別です。彼女を始めて読んだのは30年ほど前、「別冊新評」の平井和正と豊田有恒という二人のSF作家を特集した号においてでした。そこに掲載された「ダイナミズムの系譜」という平井和正論(というよりもファンレターに近い)は、当時の私にとっては衝撃的でした。人気作家にもかかわらず批評どころかレビューのようなものですら目にすることのなかった平井和正を正面から取り上げた評論家がいたことがとても新鮮で、彼女はその後「奇想天外」にも「狼の肖像」という平井和正論を連載していきました。
さらに後年には、「道化師と神」という当時の日本SFを論じた評論において、横田順彌や永井豪と並べてまたもや平井和正を取り上げています。その中で「(平井和正は)これ以上人間らしくなれぬというくらい『人間』をしか描くことができなかった。この点で、これまたどうあがいても『構造』をしか描くことのできぬ小松左京と、相補いあっているとも云い得よう」と述べていて、なるほどうまい例えだなあ、と感心した覚えがあります。
ちなみに平井和正「若き狼の肖像」のタイトルが、中島梓の評論「狼の肖像」から採られていることはよく知られています(カバーのそでの推薦文は中島梓ご本人)。やはりウルフガイシリーズは、後年のなんとか文庫などではなく、生頼範義イラストの1970年代の香り漂う祥伝社ノンノベル版(あるいはカラー口絵のあるハヤカワSF文庫版)でなくてはなりません。
ということで、まだ若かった30年前をつい思い出してしまった訃報記事でありました。
