キーワードはタレのドボ漬け
先日、夜中に一杯やりながら久しぶりにテレビをつけてみたのですが、民放があまりにもつまらないので仕方なくNHKにしたところ、Nスペの再放送で寿司を取り上げた番組をやっており、つい最後まで観てしまいました。(「世界“カイテンズシ”戦争 寿司 vs Sushi」)
日本から世界進出を目指す「元気寿司」とイギリス発の「Yo!sushi」との対決を軸に、寿司というものが、もはや日本の特殊な食文化ではなく、世界的にスタンダードなメニューとして普及しつつあるという実態が紹介されています。その裏側では、水産資源の奪い合いが激化し、食材としての魚が将来的に枯渇してしまう可能性も出てきているわけで、世界のどこでも美味しい寿司が食べられる、と手放しで喜ぶわけにはいかないようです。
ということで、今回のオススメは「寿司屋のカラクリ(ちくま新書)」。カラクリといっても「裏側を暴く」などという暴露ものではなく、正面から寿司業界の成り立ちを紹介した好著です。
興味深かったのは、味覚は食文化=育ち=何を食べて育ってきたか、という指摘です。「高級店はネタが一番おいしく感じる状態で食べさせるが(醤油を最低限、刷毛塗り)、大衆店は、タレをドボっとつけて食べさせる」、つまりそこでネタの素材選びからして変わってくる、というわけです。
よくグルメ番組で「芸能人・有名人は美味しいものを食べ慣れているので舌が肥えている」などと解説されますが、一概にそうともいえないようで、「芸能人が大間のマグロを食べるシーンがあったら醤油のつけ方をよく見るように。もし醤油をドボ漬けして食べていたら大間のマグロのよさはわからない。」(人気が出て成功しても子供の頃から身についた食習慣=寿司を素材の味ではなく醤油の味で食べてきた=味覚は、なかなかかえられない)ということも述べられています。ただし二世芸能人は違うようで、それは子どもの時から美味しいものを食べる機会に恵まれていたということなのでしょう。歌舞伎役者の通う店に不味い店なし、とよく聞きますが、その理由もこのへんにあるのかもしれません。
ちなみに先の番組で、海外の回転寿司店で外国人が寿司を食べているシーンがありましたが、みなさん醤油をドボ漬けでした。