政府税調の薄い答申
政府税制調査会の「平成21年度の税制改正に関する答申」が出たので早速目を通してみました。
「えっ、どうしちゃったの?」というくらい薄っぺらくて、 本文はわずか8ページ、文字にして約5800字。名前を連ねている委員が38名いるので、単純に頭数で割ると一人当たり約150字程度で、その量がどのくらいかというと、このブログの文頭から「ここ」までが約160字くらいだから、まあそんな感じです。
本文の中には、能書きのような現状分析や昨年の答申の引用も含まれているので、実質的内容はほとんどなく、これが答申といえるのかは疑問のあるところですが、具体的に述べているのは次の3点のようです。
1.相続税 国民の理解を得ながら議論を深めよう!
2.国際課税 企業の海外での利益を国内に環流させよう!
3.固定資産税 ほぼ今のままでOKだね!
日経なんか今朝の5面で小さく取り上げているだけでした。(ちなみに昨年なんかは朝刊1面トップでしたのに)
参考:毎日新聞に次のような記事がありましたのでメモとして。なるほど、そういった背景だったのですね。
<政府税調>消費税増税踏み込み不足 09年度税制改正答申
政府税制調査会(首相の諮問機関、香西泰会長)は28日、09年度税制改正答申を決定し、麻生太郎首相に提出した。答申は、焦点となっている消費税について、「社会保障財源の中核」との08年度答申を踏襲する考えを示しただけで増税の幅や時期には一切言及せず、政府が年末までに策定する「中期プログラム」で消費税も含めた税制抜本改革の実施時期を明示するよう求めるにとどめた。
答申は税制を取り巻く環境について「金融市場の未曽有の混乱で日本経済の下降局面の深刻化の恐れが指摘されている」と強調。そのうえで「当面、景気対策優先はやむを得ない」と、政府が追加経済対策に盛り込んだ各種の減税措置を追認した。
消費税以外の所得税や法人税など主要な各税目については、「08年度答申に示した中期的な改革の考え方を揺るぎなく堅持すべきだ」としただけだった。09年度からの道路特定財源の一般財源化も「5月に閣議決定された政府の基本方針に沿って対応すべきだ」としたものの、政府税調としての改革のあり方を示すことはできず、中身の薄い答申となった。
香西会長は会見で「中長期的な対策と緊急対策のバランスはかなり強く込めることができた」と説明したが、答申は税制改正における政府税調の影響力の低下ぶりを象徴していた。
09年度税制改正関連については、日本企業が海外であげた利益を国内に還流しやすくするため、海外子会社からの配当を非課税とする制度の導入を提言した。
<政府税調>課題山積なのに、答申は薄く、存在も軽く
政府税制調査会(首相の諮問機関、香西泰会長)は28日、09年度税制改正答申を決定した。今年は消費税増税や道路特定財源の一般財源化など課題が山積だったにもかかわらず、出された答申はA4判でわずか8ページ。「金融資本市場の未曽有の混乱」(答申)という逆風下とはいえ、税制のあるべき姿を示せなかった政府税調は、その存在意義が厳しく問われそうだ。
「米国での金融危機など、数奇な運命に踊らされた答申」。28日の税調総会で香西会長は肩を落としたが、税調の迷走の主な理由は、国内政治情勢の混乱だった。
各省庁や業界などの利害を調整し、来年度の具体的な増減税策を決める与党の税制調査会に対し、政府税調は個別の利害にとらわれない客観的な立場から税制の理念やあるべき姿を示すことで存在感を示してきた。女性の社会進出に対応した所得控除の見直しや、徴税の公平性確保のための納税者番号制導入の提言など筋論を展開するのが持ち味だった。
今年の政府税調は09年度からの道路特定財源の一般財源化や社会保障の安定財源確保に向けた消費税増税問題などに備えて、例年9月だった税制改正論議の開始を7月へと大幅に前倒しした。しかし、9月以降は福田康夫前首相の突然の辞任や自民党総裁選と麻生政権の成立、早期の衆院解散・総選挙観測など、政治情勢に翻弄(ほんろう)されっぱなし。会合の日程すら決まらない状態が続き、会合が再開されたのは答申2週間前の11月14日だった。
この間、政府・与党は景気対策を建前に過去最大規模の住宅ローン減税など次々に減税策を決定。また道路特定財源問題では自民党の道路族と地方自治体の間で一般財源化後の資金配分をめぐる対立が激化、消費税増税も政府・与党から「景気回復が最優先」との圧力がかかり、政府税調は議論の余地さえ失った。
その結果、09年度答申は前年の答申内容を「堅持する」と書くのが精いっぱい。消費税だけでなく所得税や法人税など基幹税目でも軒並み記述のない答申には委員の間からも「価値がない」との声が出た。
「突っ込んだ議論行わず、内容の乏しい答申」 加藤寛・嘉悦大学長(元政府税調会長)
政府税調は税制を通じて国民の生活と国の財政を守るという大きな役割を担っている。世界経済が変調し、日本経済が後退局面に入っている異例の時期だからこそ、中長期的な視点に立って税制の抜本改革の方向性を明示し、存在感を示す必要があった。にもかかわらず、突っ込んだ議論をほとんど行わず内容の乏しい答申しか出せなかったことは、かつて政府税調会長を務めた立場から理解できない。
政府・与党は景気対策を理由に、政府税調の頭越しに政策減税の実施を相次いで決めたが、由々しきことだ。景気下支えに政策減税が必要だとしても政治任せでは選挙目当てのバラマキになりがちで、政府の追加経済対策は実際、そうなっている。政府税調は時には政府方針に反してでも政治の行き過ぎにクギを刺さなければ存在意義が失われる。財政健全化に配慮し、国民視点に立った税制のあり方を提示すべきだった。