相続税の今後
秋になりますと、そろそろ税制改正の動きが気になってきます。
消費税の税率アップが難しそうな状況の中、今回の注目点は、相続税の大改正がどうなるかというところでしょう。昨年の税調の提言から始まって、相続税増税へ向けての流れは出来ていたわけで、主税局は税理士会と何度も意見交換会を開いて実務レベルでの問題点も整理されつつあるようですし、噂ではすでに法案作成に着手という話も聞きますので、あとは、いつどのような形で新体系が姿を現すか待つばかり、といったところです。
財務省としては、消費税増税は今は難しそう、法人税を下げろと言う声もうるさくなってきた、さてどうしよう。そうだ相続税がある。人は必ず死ぬ、つまり相続というのは確実に発生する、しかも金融資産を多く持った高齢者は多い、となると、ここから税をいただくしかない。幸い理論的根拠はバッチリだし、弱者いじめでもないから国民的反発も受けにくい・・・という感じなのでしょう。ホームページ上で、今までいかに相続税の減税をしてきたか、以前は全死亡者の8%近くあった課税件数がいかに半減したか、などを盛んにアピールしています。
新しい計算方法や節税などテクニカルな話題はいずれ溢れてくると思いますが、大きく変わる部分として注目しておきたいのは、従来の「亡くなった方の遺産総額がいくらだったのか」という総額把握を前提とした仕組みから、「自分がもらった遺産の分だけ税金を納めてハイおしまい」という相続人各人が中心の仕組みへ、例えるなら家中心から個人中心へと、思想が転換するという点でしょう。
その転換により、遺産分割の場で繰り広げられる人間模様が今後どのように変わっていくのか、ひょっとしたらこの改正が、家というものを尊重してきた日本の文化の一つの終焉をもたらす引き金になるのではないか、そんな風にも思えてきます。
<参考資料>
政府税調は、2007年11月に公表した「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」の中で、相続課税の現状等と今後の方向性について、次のように言っています。(ちょっと長いですが引用)
『相続税については、主にバブル期における地価の急騰に伴い、基礎控除の引上げ等の減税や、居住及び事業の継続に配慮した各種特例の拡充が行われ、さらに、平成15年度税制改正では最高税率の引下げを含む税率構造の見直しが行われた。
このため、近年地価がバブル期以前の水準にまで下落し、相続税の負担が大幅に緩和された結果、年間死亡者数のうち相続税の課税が発生する割合が4%程度まで減少するなど、その資産再分配機能や財源調達機能は低下している。
近年の経済のストック化の中で、家計資産及び相続税の課税遺産における金融資産の額が著しく増加している。特に、高齢者世帯ほど資産蓄積が多く、家計資産の格差も、高齢者世帯において顕著となっている。また、相続人の数は年々減少してきており、今後ともそうした傾向が続くものと見込まれる中で、相続人の取得する財産額はさらに増加していくと考えられる。こうした点を踏まえると、相続を機会に高齢者世代内の資産格差が次世代へ引き継がれる可能性も増してきていると考えられる。
また、高齢化の進展の中で、相続人自身も高齢化してきており、相続時点ではすでに相続人自身の資産形成も進んでいると考えられる。このため、相続財産が相続人の生活基盤を形成するという意味合いは従来に比して薄れてきており、遺産における金融資産の増加等ともあいまって、相続税の担税力を有する層が拡大していると考えられる。
さらに、今日では公的な社会保障制度が充実し、老後の扶養を社会的に支えているが、このことが高齢者の資産の維持に寄与することとなっている。そこで、被相続人が生涯にわたり社会から受けた給付に対応する負担を、死亡時に清算するという考え方に立てば、相続税は、遺産が相続される時にその一部を社会に還元することによって、給付と負担の調整に貢献できると考えられる。
以上の相続税を巡る環境の変化等からすれば、これまでの改正により大幅に緩和されてきた相続税の負担水準をこのまま放置することは適当ではなく、相続財産に適切な負担を求め、相続税の有する資産再分配機能等の回復を図ることが重要である。』
続く2007年12月の自民党の「平成20年度税制改正大綱」では、事業承継税制について述べた部分で、相続税について、次のように言及しています。
『この新しい事業承継税制の制度化にあわせて、相続税の課税方式をいわゆる遺産取得課税方式に改めることを検討する。その際、格差の固定化の防止、老後扶養の社会化への対処等相続税を巡る今日的課題を踏まえ、相続税の総合的見直しを検討する。』