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2008.07.29

銀むつクライシス

夏はやはり海洋冒険小説を読まなくては。と思いながら、小説ではなく書店の自然科学棚で深海を思わせる濃いブルーのカバーが目を惹いた一冊。

080729
「銀むつクライシス」
(G・ブルース・ネクト著 早川書房)


帯には「世界の海からこうして魚が失われていく」とあります。マグロもそのうち食べられなくなるなんていう話も聞きますし、巻末の世界地図や載っている写真からは海洋ノンフィクションらしい雰囲気が漂ってくるので、気になった本は取りあえずレジへ、の原則を適用です。

話の内容は2003年8月に実際にあった事件のドキュメント。インド洋南部の孤島ハード島近海でオーストラリアの巡視船サザンサポーター号が密漁船を発見。そこからケープタウン南部を通って南大西洋まで、氷山の漂う南極近海で20日間にわたる追跡劇が演じられました。追う巡視船と逃げる漁船ビアルサ号の緊迫した状況の合間に、水産物業者や飲食店が新しい食材の需要を開拓していく経緯が描かれます。

その食材が、タイトルになっている銀むつで、その正体は、以前は誰も口に入れることのなかったマゼランアイナメという深海魚です。これが様々な経緯からアメリカ本土でチリ・シーバスという呼称でレストランの人気メニューになって、価格高騰、乱獲、絶滅の危機、というお定まりのコースを辿りつつあり、密漁取り締まりというこの物語に行き着くわけです。

追跡劇は密漁船の拿捕で終わり、アクション映画ならここでジ・エンドとなるのでしょうが、現実はその後に裁判という司法プロセスが待っており、本書でもその経緯まできっちり描かれています。

日本とは制度が異なる司法の場面。弁護士が検察官を法廷でいじめたり陪審員が泣き出したり。「私にはそう言わなかったが、(彼らが密漁を)やってないわけないじゃないか!」と口では語りつつ法廷では無罪を勝ち取る密猟者側の弁護士。

拿捕にあたってオーストラリア・南アフリカ・イギリスという英連邦同士が直ちに協力体制を取ったり、イギリス海軍出身で除隊後セーシェルさらにオーストラリアへと移住してきたという巡視船の船長や、この事件の後UAEへ移住した主人公のパトロール隊長などの人生のフットワークの軽さ。

人間の消費と水産資源という大きなテーマもさることながら、パラダイス鎖国中の日本から見ると、このような周辺の話にも興味深いものがありました。

マゼランアイナメについては、訳者があとがきで以下のようにまとめてくれています。

「日本でも銀だらの代用魚として輸入された当初は、消費者に受けそうな「銀むつ」という名前で売られていた。ただしマゼランアイナメは、むつとも銀だらとも違う種類の魚だ。そこで混乱を避けるため、JAS法改正でマゼランアイナメの商品名はメロに統一され、「銀むつ」を使う場合でも「銀むつ(メロ)」などと併記することが義務づけられた。」

なるほど、確かに、先日寄った駅ビルのお惣菜屋では「メロ(銀ムツ)照り焼き・当店人気No.1」と表示されていました。

<参考>
水産庁のWEBサイトから「魚介類の名称のガイドラインについて」を探していただくと、マゼランアイナメについては、こうあります。

 学名:Dissostichus eleginoides
 標準和名:マジェランアイナメ
 それに代わる一般的名称:メロ、オオクチ
 使用しないこととする名称:ギンムツ、ムツ

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