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2008.01.20

吉川英治の「三国志」

吉川英治の「三国志」といえば、日本における三国志のスタンダードとして有名です。私も学生の頃に熱中して読んだ記憶があります。

これはかなり以前の話なのですが、あるとき書店の文庫コーナーの吉川英治文庫の前で、大学生とおぼしきカップルが、三国志を手にとって話している会話が聞こえてきました。彼氏の方がしきりに三国志を彼女に勧めているようで、「とにかく面白いんだから・・・ほら、このカバーの裏のあらすじを読んでみてよ。これがまたイイんだよね。『曹操が起つ、袁紹が起つ、天下騒然』てね。」

確かに講談社から文庫で出ている「三国志」の裏表紙の内容紹介は、文体が名調子で惹かれるものがありましたので、その若者が熱く語る気持ちは理解できました。

そんな昔のことをふと思い出して、ある時書店で文庫の「三国志」を手にとって裏を見ると、何となくフレーズに違和感が・・・

気になったので、家に帰って自分の持っている文庫を見返すと、確かに文章が微妙に異なっています。例えば、先の若者が彼女に語っていた「曹操が起つ、袁紹が起つ」というフレーズがある第二巻は、次のとおり。

(旧版)
黄巾賊の乱はほどなく鎮圧されても、腐敗の土壌にはあだ花しか咲かない。
霊帝の没後、西涼の惑星董卓は、十常侍に代って権力の中枢に就いた。しかし、一旦ゆるんだ地盤は、政権の壟断をゆるさない。
曹操が起つ、袁紹が起つ。天下騒然。
董卓の身辺には、呂布という天下無双の豪傑が警固し、刺客さえ容易に近づく隙をあたえぬ。その呂布が恋をした貂蝉という佳人--董卓の寵姫である。
傾国という言葉は『三国志』にこそふさわしい。

(現行版)
黄巾賊の乱は程なく鎮圧されたが、腐敗の土壌にはあだ花しか咲かない。
霊帝の没後、十常侍に代って、董卓が権力の中枢に就いた。しかし、群雄こぞっての猛反撃に、天下は騒然。曹操が起ち袁紹が起つ。
董卓の身辺には、古今無双の豪傑呂布が常に在り、刺客さえ容易に近づけない。その呂布が恋したのが、董卓の寵姫貂蝉。
傾国という言葉は『三国志』にこそふさわしい。


他のすべての巻も、微妙に細部が変わっています。出版社内でどのような経緯があったのかは不明ですが、面白い発見でした。(ちなみに私は格調を感じる旧版の文章の方が好きです)

080120

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