終戦のローレライ
またも終戦の日がらみ、というわけではないのですが、夏に読むなら海洋ものでしょう、ということで、以前からタイトルに惹かれて気になっていた「終戦のローレライ」(福井晴敏・講談社文庫で全4巻)を読了。久々に重厚で骨のある娯楽小説を堪能しました。
ジャンルとしては、太平洋戦争を題材にした海洋冒険小説・架空戦記・歴史SFあたりになるのでしょうが、そんな区分はどうでもいいところ。昭和20年夏の終戦までの約一ヶ月を、圧倒的な文字の量とパワーで一気に読ませます。特に中盤以降の加速度感がすごい。形としての主人公は、潜水艦に搭載された特殊兵器「ローレライシステム」に関わる少年少女の二人なのですが、他の多くの登場人物の一人一人が強烈な印象を残します。オススメ。
p.s.
「Google Earth」でマリアナ諸島・ウェーク島などを確認しながら読むと、さらに臨場感が増します。
<以下ややネタバレ>
この物語、エピローグに当たる終章がまた深い余韻を残すのですが、現実の歴史の記述部分が、ちょっと違和感を感じさせます。
なぜだろう、と考え、思い至って電卓で計算してわかったのが、時間にしてすでに戦後日本の4分の3を自分が生きてきているということ。だから、現代史を駆け足で一面的になぞっていく記述に、「そうじゃないだろう」と反応してしまうわけなのですね。たぶん、もっと若い世代の読者なら、このエピローグを何の違和感もなく受け入れられるのでしょう。歳をとることは不自由なものだと嘆息した一瞬でした。