数字が勝手に歩き出す
戦争にまつわる本をもう1冊。
石破元防衛庁長官オススメの、猪瀬直樹氏「空気と戦争」です。東工大の学生に向けて行った講義録をベースにしているというだけあって、きわめて読みやすくまとまっています。
本書に出てくる、開戦前の昭和16年春に、総理直轄の「総力戦研究所」という組織が対米戦争のシミュレーションを行い、わが国の「必敗」を結論づけていた、という話は興味深いものがあります。
また、勝敗を決定づける石油需給バランスの試算において、数字が一人歩きしていったという話。つい、税務の話に結びつけて考えてしまうのですが、錯乱の税制と指摘した「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入(同族会社のオーナー課税)」において、財務省の試算と税理士会の試算がかけ離れていた件を思い出させます。
(注)同族会社のオーナー課税とは
法人税の計算において、同族会社がオーナー社長に支払う給与(役員報酬)うちの一定額を損金と認めない、という法理論的にも経済的合理性にも矛盾する制度。わが国経済を支える中小企業に不合理な税負担を強いるこの制度の導入にあたって、財務省は「全法人255万社のうち、影響を受けるのは約2%の5万社にすぎない」と説明していたが、税理士会の調査では、その10倍の50万社は影響を受けると指摘されている。
この制度は、法案制定時の対象法人の税務申告が現在進行中のため、まだ影響の正確な実態は判明していませんが、影響の全貌が明らかになったとき、財務省はどのような釈明をするのでしょうか。
さて、話を本書に戻しましょう。
<政治家の「腕力」と官僚の作った「統計」で決まってきたものが、正しい「事実」と「数字」で覆すことができる>という指摘に説得力があるだけに、「空気」という目に見えない曖昧で情緒的なイメージの言葉は、タイトルに入れない方がよかったのではないか、と私は思いましたが、内容は読みやすいのでオススメ。
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