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2007.08.20

数字が勝手に歩き出す

戦争にまつわる本をもう1冊。

石破元防衛庁長官オススメの、猪瀬直樹氏「空気と戦争」です。東工大の学生に向けて行った講義録をベースにしているというだけあって、きわめて読みやすくまとまっています。

本書に出てくる、開戦前の昭和16年春に、総理直轄の「総力戦研究所」という組織が対米戦争のシミュレーションを行い、わが国の「必敗」を結論づけていた、という話は興味深いものがあります。

また、勝敗を決定づける石油需給バランスの試算において、数字が一人歩きしていったという話。つい、税務の話に結びつけて考えてしまうのですが、錯乱の税制と指摘した「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入(同族会社のオーナー課税)」において、財務省の試算と税理士会の試算がかけ離れていた件を思い出させます。

(注)同族会社のオーナー課税とは
法人税の計算において、同族会社がオーナー社長に支払う給与(役員報酬)うちの一定額を損金と認めない、という法理論的にも経済的合理性にも矛盾する制度。わが国経済を支える中小企業に不合理な税負担を強いるこの制度の導入にあたって、財務省は「全法人255万社のうち、影響を受けるのは約2%の5万社にすぎない」と説明していたが、税理士会の調査では、その10倍の50万社は影響を受けると指摘されている。

この制度は、法案制定時の対象法人の税務申告が現在進行中のため、まだ影響の正確な実態は判明していませんが、影響の全貌が明らかになったとき、財務省はどのような釈明をするのでしょうか。

さて、話を本書に戻しましょう。
<政治家の「腕力」と官僚の作った「統計」で決まってきたものが、正しい「事実」と「数字」で覆すことができる>という指摘に説得力があるだけに、「空気」という目に見えない曖昧で情緒的なイメージの言葉は、タイトルに入れない方がよかったのではないか、と私は思いましたが、内容は読みやすいのでオススメ。

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「空気と戦争」文春新書

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2007.08.16

続・終戦の日に

昨日の「英霊の聲」の続きを。

強い潮の香、月の押し照る海上にざわめく人ならぬものの声、半ば月光に透されて佇む一団、飛行服に血染めのマフラーの神霊の姿・・・

この、三島由紀夫が描くところの、海上を彷徨う特攻隊員の霊が天皇に救済を求めるイメージは、別の本でも読んだことがあるな、と記憶をたぐって思い出したのが、別冊宝島シリーズの「映画宝島 怪獣学・入門!」でした。

070816a三島由紀夫と怪獣本を同列に扱うなと言う声も聞こえてきそうですが、「怪獣学・入門!」は表題に似合わない硬派で骨太な評論集で、その巻頭を飾るのが「ゴジラは、なぜ皇居を踏めないか?」という赤坂憲雄氏の論考であり、副題に「三島由紀夫『英霊の聲』と『ゴジラ』が戦後天皇制に突きつけたものとは何か?」とある通り、この小文はゴジラ論というよりむしろ三島由紀夫『英霊の聲』の考察でもあります。

冒頭を紹介すると、1954年の映画「ゴジラ」に三島由紀夫が好意的な評価を与えていたという話を聞いた筆者は「あの三島由紀夫がゴジラなどという大衆映画に共感を示すなんてことが、一体あるものだろうか。半信半疑だった。ところが最近になって、映画『ゴジラ』と三島の小説『英霊の聲』が思いがけず、ある位相にあっては生き別れの双子の兄弟のようによく似ていることに気付いた。」と語ります。

そして評論家の川本三郎氏が『ゴジラ』について語ったエッセイの中で、『ゴジラ』は第二次大戦で南の海に死んでいった兵士たちへの鎮魂歌ではないか、と指摘していたことを紹介したうえで、「『ゴジラ』の基層には、おそらく無意識の構図として、戦争末期に南の海に散っていった若き兵士たちの、ゆき場もなく彷徨する数も知れぬ霊魂の群れと、かつてかれらを南の戦場に送りだし、いま死せる者らの魂鎮めの霊力すら失ってただの人間にかえった、この国の最高祭祀者とが、声もなく、遠く対峙しあう光景が沈められているはずだ。」と考察し、そこに「英霊の聲」の特攻兵士の英霊を重ね合わせます。

南の海に散っていった兵士たちが月の押し照る海上を彷徨いつつ祖国の変貌をじっと見つめている、この光景が、どこか私たちの意識の深層に響くものがあると感じるのは、私だけではないと思います。

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2007.08.15

終戦の日に

終戦の日が近づくと、書店では近代史や戦争もののコーナーが設けられ、テレビは戦争関連の特集番組ばかり、と思って今日の番組表を見たら、終戦の日がらみではNHKがちょこっと番組をやるだけで、民放はふだんどおりのバラエティやドラマのオンパレード。そんな戦争の記憶が薄れつつある今日この時代を、当時の若者がもし見たら、いったい何を思うか・・・

そんな感慨に耽ってしまう1冊が、三島由紀夫の「英霊の聲」です。神道の儀式により降りてきた二・二六事件の青年将校と神風特攻隊員の霊がその想いを語るという短編ですが、異様な迫力がある作品です。

その迫力をもたらす要因かどうかわかりませんか、この短編にまつわる裏話を、三島由紀夫と親交があった美輪明宏氏が、瀬戸内寂聴さんと対談した「ぴんぽんぱん ふたり話」の中で語っています。

それによりますと、美輪氏曰く、この作品は、二・二六事件の反乱軍の将校のうちある特定の一人の霊が実際に三島に取り憑いて書かせたもので、三島自身が「自分の表現でも言葉でも書体でもないから書き直そうとしても、絶対書き直せないある力が働いた」と語ったとのこと。興味ある人は、同書をご参照ください。

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「英霊の聲」河出文庫

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「ぴんぽんぱん ふたり話」

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2007.08.14

国家情報戦略

久々に、最近読んだ本を何点かご紹介。

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国家情報戦略 講談社α新書

外務省のラスプーチンこと佐藤優氏が、韓国軍情報部内でスパイ疑惑をかけられ逮捕投獄された経歴を持つコウ・ヨンチョル氏と対談した、日韓の専門家によるインテリジェンス本。手嶋龍一氏との対談本の第二弾的な色合いのものですね。

対談本なので読みやすく、内容もきわめて興味深いのですが、佐藤氏がちょっとしゃべりすぎという感あり。もう少し両者の発言のバランスがとれていればなお良かったのですが。

ところで佐藤氏、外務省休職後は盛んに著述活動を行いその才能を遺憾なく発揮されているようですが、鈴木宗男事件というのは、彼を世に出すために誰かが仕組んだ謀略だったのではないか、国策捜査だと息巻いていた検事達も、目に見えぬ糸に操られていたに過ぎなかったのではないか、という見方は穿ちすぎでしょうか。

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2007.08.04

入手不可本を発見

数日前、Amazonから次のような翻訳調のメールが来ました。

「誠に申し訳ございませんが、大変残念なご報告があります。お客様のご注文内容のうち、以下の商品については入手できないことが判明いたしました。
(・・・書名・・・)
私どもでは、ごく最近までこの商品を入手可能なものと見込んでおりました。この結果がわかるまでに長い時間がかかったことについても、心よりお詫びいたします。」

2ヶ月ほど前に注文した本が取り寄せできなかったことのお詫びメールなのですが、他のオンライン書店でも入手不可の本でしたし、こちらも注文したことを忘れかけていたほどだったので、「仕方ないな」程度にしか感じなかったのですが、その本を、今日、仕事帰りにふらりと寄った品川駅前の某書店ですんなり発見。

書棚巡りは、してみるもんですね。

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